劇団ひまわり研究科
「創作」クラス
「実戦的劇作法」より

No.1 「三単一の法則」

 三単一の法則……時・所・筋の一致
時が飛ばない 場所が一定 筋が一本
例)「オイディプス王」ソボクレス
時……クレオンが神託を持って帰るところから、王が放浪の旅に出るまでの半日
所……テーバイの王宮前
筋……王の穢れ探しから真相の発見までの一貫した展開

ル・シッド論争……フランス古典主義において「三単一の法則」を守るべし という伝統を、1636年コルネイユの「ル・シッド」という作品が 破り、この作品は非難を浴び大論争を生んだ。

メリット→集中度が高く、緊密な舞台が創れる
デメリット→客が疲れやすい。 時間的空間的制約がある。

No.2 「制限→無限」 ☆☆☆

 演劇の制限……生身の役者が演じる どんな場面も舞台上に作らなければならない 時間を        変化させづらい 場面を変化させづらい 動物は出しづらい CGのような        特殊効果は出来ない etc.
             ↓
        これらの制約のなかどう書くか、どう生かすか
             ↓
        生であるが故の体験 俳優のエネルギー、感情描写がダイレクトに伝わる場        が一定であるために集中度・緊密度が高い etc.

No.3 「潜在的矛盾」 ☆☆

 「潜在的矛盾」……クライマックスで明らかになったとき、逆転の展開(取り返しのつかな          い悲劇)をもたらす、隠れていた事実。必然的というよりも運命的に、          潜在的矛盾は露わになり、悲劇は加速し、終幕を迎える。

例)「オイディプス王」
穢れを取り除く→自分が穢れである
山中で殺した老人→自分の父親
死んだはずの赤子→羊飼いが拾って育てた
英雄・偉大な王→父親殺し・母親との近親相姦という犯罪者など、多くの隠れていた矛盾が、「転」で 明らかになり、イオカステの自殺、オイディプスの放浪という全く立場が逆転した結末を迎える。
      
メリット→観客の想像もつかない展開をする、最も劇的な効果を生む方法。  
     運命や自然、神など、人間を超えた力を表現できるため深く重い普遍性を表現でき     る。 
     悲劇ではなく、喜劇としても応用できる。

No.4 「発見と急転」 ☆☆☆

「発見」(アナグノリシス)……潜在的矛盾が明らかになる
「急転」(ペリペテイア)……潜在的矛盾が明らかになったことで起こる運命的逆転
*この二つは、同時に起こるべきである

メリット→矛盾でなくとも潜在的事実を作っておくことで伏線となり、劇的効果が増す。これは悲劇的結末だけでなく、いろいろなスタイルで応用できる。
例)「最後の一葉」→落ちない葉っぱは、下の階の老人が描いたものだった

No.5 「普遍性」 ☆☆☆

 普遍性……時代を越えても変わらないもの。人間の本質、共通の理念、社会の原理など。
       優れた戯曲は必ず普遍性を内在しており、時代を越えても上演され、異なる国       の人々であっても共感を覚える。

「恋愛」は、最も描かれる普遍性。「ロミオとジュリエット」のように、引き裂かれる運命が待ち受けていても。
「戦争」も、変わらない普遍性がある。
「生」と「死」は、常に人間につきまとう。
「人間」をよく見つめ、しっかりと描くことが普遍性を持つ上で大事

Question:他に普遍的なものはなにがあるだろうか?

 

 

メリット→ピーター・ブルックは「演劇の素晴らしいところは、人生や死といった人間の永遠の問題に接する場となることである」といっているが、生である舞台であるが故に一層、普遍的なテーマは観客を考えさせ、共感させ、魅了させ、勇気を与え、感動を共有させる。

注意→表面的な普遍性は浅はか。例えば、映画「インディペンデンス・デイ」は、「戦争」を描き、「人間の勇気・協力・強さ」などを描いているが、リアリティーに欠け、真に迫る描き方ではない。

No.6 「社会的テーマ」 ☆☆

例)「オレステイア」作:アイスキュロス
オレステスの尊敬する父王アガメムノンが、母とその浮気相手に殺さ れてしまう。アポロンの神託も殺害を要求し、オレステスは姉のエレクトラと協力し、実の母とその浮気相手を殺す。しかし、オレステスは復讐の女神たちによって、罪を追求され、法廷での裁判に。かろう じてオレステスは1票差で無罪となる。

→肉親の殺害は、現代の社会的テーマとなる。時代とマッチしたとき、社会的テーマはより観客に考えさせる力を持つ。他にもアイスキュロスは人間の生と死、神への畏敬、正義、新しい社会制度、男性優位性など、様々なテーマを持ち込み、彼自身の思想を劇世界に表した。

 例)「ロボット」カレル・チャペック
ロボット製造工場で起きた、ロボットたちの反乱。人間は皆殺しにされ、ロボットが人間のように生き始める。
  →テクノロジーは進歩し、労働を機械に任せ便利になっていく現代、どこで足下をすくわれるかわからないという警鐘。

Question:現代日本でテーマに出来る事はなんだろうか?

 

メリット→観客に考えさせ、新しい価値観を示唆できる。社会的なテーマを背景として、よりその中の「人間」を描くことができる。

注意→社会的なテーマは必ずしも必要ではない。テーマ性にばかりとらわれると、説教臭い作品になったり、頭でっかちでキャラクターの魅力の乏しい作品になったりするおそれがある。また、テーマは意識しなくとも、自ずとテーマ性が浮かび上がることもある。「人間」と「ドラマ」をしっかり描くことが第一。

No.7 「キャラクター設定」 ☆☆☆

人間を描く上でも、ドラマを展開させる上でも大事なのはキャラクター設定。
 
キャラクター設定へのアプローチ@……履歴書を作る。
     *市販の履歴書を使ってもいいが、役に立たない項目が多い。
     *役作り用の人物カルテを参照のこと。
      あまり細かく設定する必要はない。頭の中に、そのキャラクターが生きた状態
     でイメージできれば、勝手に一人歩きしてくれる。

キャラクター設定へのアプローチA……人物相関図を作る。
     ドラマは、キャラクター間で引き起こされる。人物相関図を作ることはドラマ
     作りに反映する。
     この二つ「〜は…したいと思っている」、「〜は〜に…してほしいと思ってい
     る」は、キャラクターの感情・意志・目的に即しているため、この二項目だけ
      でもかなりドラマ性が出る。

キャラクター設定へのアプローチB……あてがき
     実在の役者にあてて書けば、作家もイメージしやすいし、役者も演じやすい。

キャラクター設定へのアプローチC……人間観察や映画から拾う
     普段の生活から人間観察し、その人の性格や人生を想像する。
     また、映画などから、ヒントとなるキャラクターを得る。
注意→アニメのキャラクターからは影響を受けすぎない方がいい。

注意→「どこかで見たことあるようなキャラクター」「ステレオタイプなキャラクター」は、特に意図的でない限り避ける。ただし、オリジナリティーを求めるあまり、「こんな奴いない」という変な人物ばかり設定するのもよくない。

No.8 「ストーリー性」 ☆☆

ストーリー性……物語の色合いが濃い。わくわくさせる展開。時間の経過と ともに場面も展 開し、「それからどうなるか」を教えてくれる。

*E・M・フォースターによるストーリーとプロットの定義
ストーリー……王が死に、王妃が死んだ。「そして」でつながる。
プロット……王が死に、王妃が悲しみに暮れて死んだ。「なぜなら」        でつながる。(演劇的)
※厳密にいうと意味が違うが、便宜上ストーリーとプロットの違いは問題にせず、「話の面白さ・魅力」という観点で考察する。

例)「サウンド・オブ・ミュージック」
1938年のオーストリア。退役軍人トラップ大佐の屋敷に7人の子供の家庭教師とやってきた修道女マリアは、厳しいしつけをさせられていた子供たちに歌などを通して愛情を通わせ、心を開く。
マリアは大佐に恋心を感じるが、大佐には婚約者がいる。しかし、マリアが必要だと気づき、二人は結婚する。
新婚旅行から帰った時、オーストリアはナチスに併合されており、トラップ一家は音楽祭を利用して、ナチスから逃れ、スイスへ。

メリット→ストーリー性が豊かだと、退屈しない。演劇にあまり馴染みがなくても感情移入し、楽しむことが出来る。映画も、ストーリー性が豊かな作品は客が入る。

デメリット→豊かなストーリーを発想すること、大きな世界観を描くことが困難。更にその中で人間描写をしっかり入れるのが難しい。面白い、または感動的なストーリーを並べ立てただけになると、劇的さに乏しい薄い作品となる。

*「劇的とは」木下順二
「無限のつながりとひろがりのただ一部を切り取ってきて、おもしろおかしく料理して舞台の上に陳列してみせるのがドラマなのではない。無限の時間、無限の空間が凝縮され圧縮され引きたわめられて形成される小宇宙、しかも自転する小宇宙、それがドラマなのだと私は考える」

 

No.9 「虚構」 ☆☆☆

 虚構……事実でない。が、事実らしく仕組まれているもの。フィクション。

演劇は虚構である。舞台上にあるのは、既に筋書きがあり、稽古されたもの。すなわち、いかに現実的で、リアリティーがあると感じさせるかは演出家や俳優の腕の見せ所。

劇作家は、虚構であることを前提に、いかにも事実のようだと感じさせるのが腕の見せ所。現実にあり得ないことでも、あり得るように見せられればOK。現実にあり得ないことで、あり得ないと思わせたら失敗。   
例)・都合のよい展開 ・理由のはっきりしない展開・理由はあるけど釈然としない展開

No.10 「ドキュメンタリー性」

 ドキュメンタリー……虚構を使わず、記録に基づいて作ったもの。

演劇において、事実に基づいて脚色することはできる。それは虚構には違いないが、作家の想像で創った作品よりも、大きな力を持つことがある。それは、事実ならではのリアリティーの力。

*また、「事実は小説よりも奇」という言葉があるように、事実なのにあり得ないと感じさせることもある。人は「奇跡的な出来事」が好きなので、事実と断れば、大きな感動を呼ぶ作品になる場合もある。また、「猟奇的な出来事」も、なぜその人間を猟奇的な行為にさせたのか、興味が沸き、自分の身の回りにもあり得ることとしてリアリティーを感じる。

No.11 「構成とプロット」 ☆☆☆

 プロット……筋。原因と結果による展開。計算された構成。

  アリストテレスは、ドラマの諸要素(筋・性格・措辞・思想・場面・旋律)のうち、筋が  最も大事だといっている。
  プロットを練る上で、重要なのは構成である。古典的な構成論でいえば、能の「序・破・  急」、アリストテレスのいう「初め・中・終わり」、一般的な、「起・承・転・結」があ  る。これらは大きな枠組みとして念頭に入れておきたい。実際には、かなり複雑だろう。

Exercise:次のバラバラのシーンを、並び替えて、プロットを組み立てなさい。

A.ヒギンズはピカリング大佐と、6ヶ月で貴婦人に変身できるか賭けをすることに
B.ヒギンズは、イライザが気にかかり、寂しく思う。イライザが家に戻ってくる。
C.ヒギンズという言語学者が、イライザという言葉遣いの悪い花売り娘と知り合う
D.イライザを家に住まわせ、言葉遣いを直す作戦をあれこれ講じる
E.イライザは上品な言葉遣いを身につけたくてヒギンズに弟子入りを志願する
F.イライザは実験の道具に過ぎなかったと激怒し、家出する
G.イライザは社交界でデビューし、皆から一番の注目を浴びる

Answer:

*プロットをどう構築するかは無限の可能性があるが、以下のことは注意したい。
@「起」に当たる部分は、登場人物の性格や行動など必要最低限の基本的な情報を観客に自然に知らせながら、登場人物やこれからの展開に興味を観客に感じさせる。注意すべきは説明的にならないこと。例えば、「ぼくは神経質なんだよね」と台詞で言わせるよりは、「A(ふと電気スタンドのほこりに気づき、ウェットティッシュでふく)」と、アクションで示した方が自然に示せる。
A「承」に当たる部分は、一本の筋でも複数の筋でもいいが、広げた風呂敷の上でたくさんの事件や葛藤、対立、逆転が起こり、静と動が行き交い、エネルギーがぶつかり合う。そして、B「転」でクライマックスを迎える。これは意外性があればいい。
最後に、C「結」で風呂敷は包まれる。その際広げた風呂敷が大きすぎると集束に時間がかかり、だれる。

No.12 「ト書き」 ☆☆

戯曲はト書きと会話で構成される。ト書きは、舞台や場面の説明、人物の出入りや表情・反応などを説明したもの。

*ト書きを書くときの配慮
戯曲の場合……大体の舞台装置を念頭におく
       照明・音響効果を念頭におく
       人物の登退場を念頭におく
シナリオの場合……映像としてどう見えるかを念頭におき、クローズショットやロングショッ         ト、モンタージュといった映像特有の技術を意識する
         連続した映像を意識する

注意→俳優・演出らの仕事とかぶるので、必要最小限のト書きでいい。余計な事まで書きすぎないこと。

No.13 「台詞」 ☆☆☆

 戯曲のほとんどは台詞が占める。すなわち、ほとんどが人物間での対話によって成り立っていると考えていい。

Exercise:台詞についての考察―正しいと思う文に印をつけなさい。
□会話なので、普段喋る会話をそのまま持ってくる感じで書くのがよい
□シェイクスピアのように、長く朗唱するような台詞がよい
□台詞が短いとテンポが出るので、極力短い台詞がよい
□舞台は現実より凝縮されているので、日常会話でもだらだらさせない
□説明的な台詞はよくない
□よく使われてきた表現は皆が知っているので積極的に使う 
     例)「この子はタケノコのようによく育つわ」「彼は本の虫ね」
□一部の人にしかわからないギャグやマニアックな表現は避けるべき

*ポイント
・日常会話は冗長なもの。作者は、日常的な自然さを意識しながらも、取捨選択し、吟味し、凝縮し、言葉をつくらなければいけない。
・俳優にとって喋りやすい台詞でありたい。
・テンポの調節を心がけなければいけない。「退屈」は敵である。
・全ての台詞になんらかの意味を持たせるつもりで書く。
・陳腐な言い回しは排除する。
・言葉には、感情・イメージをのせることができ、行動を促す力がある。

No.14 「独白と傍白」 ☆☆

 独白……一人だけの時の長い台詞。しばしば観客のほうを向いて、自らの感情を吐露する。

例)「ハムレット」
ハムレット「生か、死か、それが疑問だ、どちらが男らしい行き方か、じっと身を伏せ、不法な運命の矢弾を堪え忍ぶと、それとも剣をとって、押し寄せる苦難に立ち向かい……」

メリット→強烈な感情を、非常に伝えたい話を、じっくりと観客が集中した状態で表すことが出来る。

デメリット→多すぎたり、長すぎたり、演技力がないと、退屈してしまいがち。

 傍白……誰にも聞こえていないことを前提に、しばしば脇のほうを向いて、こっそりと自ら     の感情を観客に教える。
例)「ハムレット」
ハムレット「(再び本に戻る)」
ポローニアス「これ、この通りまだ娘のことを。だいぶいかれておるわい……もう一度話しかけてみよう」

メリット→心の中で密かに思っていることを伝えられる。他の人に聞かれてはいけない状況であれば、笑いが起こる場合もある。

デメリット→心の中の言葉は、表情などで表現できる。意図があって傍白を使わないと、ただの説明になる。

No.15 「ギャグで笑い」

 ギャグ・大げさなアクション・ウケねらいの台詞・身内ネタ・モノマネetc
→これらは、笑いを取るためにわざわざ加えた、無意味で、表面的なもの。
内容が伴わないだけでなく、その登場人物と作者の浅はかさを露呈する低俗なもの。

メリット→内容うんぬんよりただ笑わせたい舞台を作りたいなら、多用できる。演劇をよく知らない素人を客につかせたいならこの種の芝居は適している。

デメリット→レベルが低い。笑わせる以外に意味がない。優れた作品を書きたいならば、この種の芝居に走らないよう注意すべき。

No.16 「状況の構築で笑い」 ☆☆

 ギャグなどが、そこだけを抜き出して見ても笑えるのに対して、人物が滑稽な状況に追い込まれて、奮闘したり失敗したりするところに笑いが起こり、通して読まないと笑えないのがコメディーの要素。

例)「こちらがあたしのお父さん」アラン・エイクボーン
第一幕第一場 グレッグとジニーのカップル。同棲し始めてグレッグは結婚したいと思い始め たが、大きな男物のスリッパやたくさんの花束、チョコレートの箱、住所の書かれたたばこ の箱などが気にかかる。住所は両親ということを信じて、ジニーがそこへ出かけたときこっ そりついていく。
第二場 グレッグのほうが先についてしまい、ジニーの両親と思われるフィリップとシーラに 挨拶する。実はフィリップはジニーの浮気相手。フィリップは、逆にグレッグが妻の浮気相 手だと思い、グレッグの「結婚させてほしい」という願いに怒る。
第二幕第一場 ジニーが家にやってくる。ジニーはグレッグと結婚するためフィリップに別れ を告げに来たのだ。グレッグが来ていることを知り、浮気がばれないように娘を偽るジニー 。
第二場 しかし、ジニーはシーラから「どこで生まれたの?」と聞かれてしまい、珈琲にむ  せて大騒動になることで危機を脱する。全ての誤解は、ようやく解ける。
→「誤解」を使った勘違いの状況から笑いを引き出している。

No.17 「コメディーの奥義」 ☆☆☆

・Plot-driven性……プロットが登場人物たちを滑稽な状況に追い込む。登場人 物たちは、プロットの流れの上で慌てふためいたり喜んだり悲しんだ りする。作者がどちらかというと意図的に面白い状況に追い込んでいっている。ファルス(笑劇)の典型的なスタイル。
・Character-driven 性……キャラクターの性格や行動が原因で、滑稽な状況が 生まれる。プロットは、そのあとについてくる。
・登場人物たちの真剣な姿が、第三者に滑稽に思える
・シンプルさを心がける

例)「古畑任三郎」作:三谷幸喜
   Plot-driven……殺人事件に巻き込まれる。犯人と出会い、会話する機会がある。犯人特   定のヒントが見つかる。
   Character-driven……古畑任三郎本人も今泉慎太郎も犯人も、どこかおかしいユニーク   なキャラクターを持っている。
   真剣な姿……犯人はばれないようにすることに真剣だが、それがおかしさを生み出して   いる。いい加減に見える古畑・今泉とのコントラストもおかしさの要素に。
   シンプルさ……殺人事件発生→犯人に目を付ける→トリックを暴く→自白に追い込む   →解決というシンプルな構造

No.18 「言葉遊び」

 言葉の音や意味を利用して台詞を組む。例えば、複数の意味をもたしたり、似た言葉を並べたり、同じ言葉を繰り返したり、同じ音の言葉で組み立てたりする。

例)「ART」(女性版)作:ヤスミナ・レザ 脚色・翻訳:別役慎司
佐和子 ポール・ヴァレリーの言葉を知ってる? それを私なりにちょっと変えるとね。
真紀 ポール・ヴァレリーがなにをいおうとどうでもいいって。
佐和子 ポール・ヴァレリーが嫌いになったの?
真紀 私に向けてポール・ヴァレリーを引用しないで。

No.19 「台詞のテンポ」 ☆☆☆

 テンポ(速度)とリズム(律動)の調節は大切。*「テンポがいい」というときは、リズムの良さも含んでいる。

コメディーでは特に短い台詞をテンポよく重ねることが笑いにもつながる。 
悲劇の場合は、逆に感情面をしっかり台詞に入れるため、テンポは全体的に遅めになる。もちろん、舞台進行の中で、テンポは絶えず変化し続けている。テンポが一定では退屈になってしまう。
戯曲は対話で成り立っているため、登場人物の呼吸を合わせることが大事。 
登場人物はそれぞれ独自のテンポ・リズムを持っている。

No.20 「オーバーテクスト&サブテクスト」 ☆☆☆

 オーバーテクスト……戯曲に書かれている部分 
 サブテクスト……戯曲に書かれていない部分

*戯曲に書かれているオーバーテクストは、氷山の一角に過ぎない。優れた戯曲は、豊富なサブテクストに満ちている。

注意→・台詞やト書きで全てを説明しようとしてはいけない。
   ・観客は、言葉の奥を、隠された心理や心情を見たいと思っている。
   ・表面的な台詞は、俳優も感情面・行動面での開拓が出来ず、役作りや演技が薄くなっ    てしまう。
   ・サブテクストの全てに気づいてもらおうと思う必要は全くない。

例)「桜の園」作:チェーホフ
シャルロッタ (物思いに耽って)自分がいくつだかもわからないの。
           なぜ?過去を知らない?親がいない?孤児だったのか。
 だって、ちゃんとした身分証明書なんてないし。……だからさ、いつまでも
 出生の証がない。孤独?アイデンティティーがほしい。認めてくれるもの(人)がほしい?
 自分は若いんだって思うことにしてんの。
 前向きな生き方。なぜ若いと思っていたいのか。どういう行動に表れる?

No.21 「メタファー」 ☆☆

 直喩……「〜のような」「〜のように」と明示した比喩。例)象のような足
 メタファー……暗喩・隠喩。全く違う物同士を取り上げ、同一性を暗に示す 比喩。
    例)「人間は考える葦である」 

メタファーは、観客がすぐにイメージできる直喩と違い、異なる物同士の特徴を共有させるため、内包する意味が大きく、機知の富んだ深い表現となる。観客がその全ての意味に気づくとは限らない。

例)「リア王」シェイクスピア
  第三幕第四場で、リア王は娘たちに対して「親の血を吸うペリカン娘」といっている。これは、ペリカンが親の血を吸って成長するという話を受けているが、そこには@娘たちが全てを奪い尽くして生きているという暗示、Aペリカンは子を救うために生き血を与えるという面から、リアは心血を注いで娘たちを育て上げた父親の象徴という暗示がある。このメタファーからは、「娘への非難」「リアへの同情喚起」を読みとれる。また、観客は、「ペリカン娘」というのが正確ではないと知っている。なぜなら、末娘のコーディーリアはリアのことを本当に思っていたのに、リアがその気持ちを理解できず勘当し、自らの蒔いた種によって破滅の道を辿っていることを知っているからである。この認識のずれは観客に、リアの行為の愚かさ、理解のなさを一層強く感じ取らせる効果がある。

例)シェイクスピアの花々
シェイクスピアの作中に現れる植物の種類は150種以上。シェイクスピアは、植物の持つ特徴や意味、伝説をメタファーとして引用した。
・「真夏の夜の夢」で惚れ薬の効果を治すために使ったダイアナの花の場合、@ダイアナの花は古代ローマ、中世では「貞操の木」といわれた。A性欲抑制の効果があると される。B貞節の女神ダイアナの植物である。C浮気なキューピッドの花に勝る恵み ある力を持つ。D貞潔な結婚を象徴する。このメタファーは、作品にピッタリと合っている。

例)イプセンの一部の作品名
「人形の家」「幽霊」などは、作品名が作品全体のメタファーとなっている。

No.22 「演出家的視点」

 演出家的視点……照明・音響・舞台転換・舞台装置などへの意識
→劇作家も、これらが演出家並はいらないが、ある程度具体的に意識できたら、効果的な場面を作ったり、舞台転換の処理をスムーズにしたりする一助となる。

注意→演出面で演出家にはかなわない(例外もあるが)。だから、あまりに意識しすぎると、演出家を逆に苦しめる。作品の可能性も狭まる。優秀な演出家とタッグを組めるならば、作家は描きたい世界を思い切り書いてしまったほうが最終的に良い作品になる。

No.23 「想像力の喚起」 ☆☆☆

 演劇におけるイマジネーションの重要度はかなり高い。なるべく、観客の想像力をかきたてられるほうがいい。サブテクストは、想像力をかきたてる上で欠かせない。
→演劇は、目に見えるものよりも、登場人物の感情やイメージ、テンポなど目に見えないもののほうが大事である。

*ハリウッド映画はCGや特殊効果を駆使して目に見えるものを重視している。人の心を打つ作品を作りたいときは、映画においても目に見えない要素が必要になる。
*なにもない裸舞台をベースに、装置を必要最小限にし、観客の想像力をより喚起させる演出は欧米の、特に一流の演出家によく見られる。この空間をピーター・ブルックの「なにもない空間」から「エンプティー・スペース」と呼ぶ。

No.24 「日常の断片」 ☆☆

 日常生活を切り取って、舞台にのせたかのようなナチュラリズムな芝居。
 古くはメーテルリンクが目指した静演劇、現代日本では、平田オリザらの「静かな演劇」。

メリット→自然で嘘臭くない。

デメリット→作品通して「日常の断片劇」だと、単調で退屈になる恐れがある。ドラマティックな展開に乏しくなる。

 完全なナチュラリズムは、無駄な会話や間も多く、劇的さが乏しくなるが、観客には覗き見しているような現実感を狙える。うまくリアリズムとして仕上げれば、三単一の法則の効果のように、緊密で劇的でありながらリアルな舞台になる。

No.25 「登場人物数の制限」 ☆☆

 映画と違って、演劇にエキストラは必要ない(群衆として表現する以外は)。
従って、登場する人物は全て意味があって登場するべきである。ちょっとだけ出るだけの端役は、観客に余計な期待を抱かせるだけでなく、俳優を起用するコストがかかる。

Discussion; 登場人物数は、多くすること少なくすることに、それぞれ違うメリットデメリットがある。話し合ってみよう。

 

 

 *その作品にあった、必要最小限の登場人物数に抑え、むやみやたらに多くの人物を出すより、一人一人をしっかり描くことが大切。

 

No.26 「メインフォーカスとサブフォーカス」 ☆☆

メインでフォーカスが当たっているところと、サブでフォーカスが当たっているところがある。なんでもメインになると観客を混乱させ、作品が伝わりにくくなる。メインとサブのバランスをうまく生かす事が大事。

「主筋と脇筋」……軸となる主人公を中心とした大きな筋と、主筋ほど重要ではないが、脇役の立場がわかったり、全体の中でコミカルな息のつけ る部分であったり、主筋とのコントラストになったりする小さな筋。

例)「ヘッダ・ガブラー」作:イプセン
 ヘッダを中心とした、退屈な生活・夫テスマンの教授就任の争い・原稿をなくした 元恋人レェーヴボルグに自殺を促すなどの筋が主筋であるが、レェーヴボルグとテー アの二人三脚の原稿執筆は脇筋といえる。テーアが献身的で、レェーヴボルグが過去 の失敗から脱却して生きている様が、ヘッダには面白くない。

「演技上のメインとサブ」……サブキャラクターでも(わずかな時間であって も)メインになれる箇所があったほうが、登場人物一人一人が際立つ。
例え、主人公の友達のような脇役のうちの一人でも、主人公を真っ正面から非難したり、殺害計画を企てたりすれば、そのときはメインになる。
*役者は、メインの時とサブの時とを区別して考えなければいけない。サブの時はサブに徹し、メインの時は自分が主役だとくらい思って大きく演技するべき。

No.27 「因果」 ☆☆☆

 因果→原因(cause)と結果(effect)
  ドラマは原因と結果の繰り返しである。結果だけを並べては、観客は なぜそうなったの  かが理解できない。なにかが起こるときには原因がある。人物の行動や感情の変化にも理  由と必然性がある。
*役者はもちろん行動と台詞に理由を見つけだし、正当化した上で演技しなければ、機械的・表面的・段取り的な演技になってしまう。

No.28 「葛藤と対立」 ☆☆☆

 劇的であるということは、そこに葛藤・対立があるということ。登場人物は、時には悩み、考え、行動に移す。そして、しばしば誰かと対立したり、事件が起きたり、危機に陥ったりする。
  自らの意志を実行に移そうとしたとき、相手と対立すれば、感情とエネルギーがより出るし、対立を乗り越えるための新しい選択と行動が生まれる。

 例)Improvisation ~CONFLICT~ 「二人で旅行」
  A:速くて便利な飛行機を使いたい。
  B:経済的で、ゆっくり景色も楽しめる電車を使いたい。
→AとBの意見は違い、主張し合ったとき葛藤・対立が起こる。AもBもこの場合、自分の意志を通すためには、いかにメリットがあるかを相手に伝えて納得させないといけない。

 *劇作家は、登場人物たちを、大いに悩まし、障害を与えていい。ドラマの中で、葛藤・対立が豊富であれば、エネルギーの満ちたドラマティックな内容になる。例えば、ハムレットが父の復讐に際して葛藤がなく、即座にクローディアス王を殺していれば、ほとんどなんのドラマもなく劇は終了している。
*また、葛藤・対立は、登場人物たちの感情・意志が原因で引き起こされるため、人間の深い感情・心理描写につながり、サブテクストの豊富な作品となる。

No.29 「両極性」 ☆☆

 演劇は人間を描く。優れた劇作家は人間の永遠の問題を劇世界で現した。それらは、葛藤といってもあまりに巨大で結論の出ない、両極要素である。
例えば……生と死 神と人間 自然と人間 善と悪 愛と憎悪 信と不信 私欲と無私 若さと老い 戦争と平和 男と女 表と裏 etc.
 *これらの永遠のテーマに、劇世界を通して直面できるのは、演劇の素晴らしい点である。

No.30 「芸術性」 ☆☆☆

 演劇は芸術である。演劇にたずさわる者は、芸術であるという意識を持っていなくてはならない。この意識がない、もしくはこの意識を捨てたとき、演劇はレベルの低いものとなる。
  日本の演劇のレベルが低い大きな要因は、芸術であるという意識が低いこと。

・表現性……身体・言葉・表情などを駆使し、表現の媒体としている
・普遍性……時代を越えても変わらない永遠のテーマ 
・根源性……物真似や踊りなどは古来からの人間ならではの表現
・創造性……全てがクリエイトされたもので、二つと全く同じ舞台は存在しない 常に新しくクリエイトされる
・目に見えない力……人の感情や心理、イマジネーション、テンポ・ リズム、雰囲気、空間、エネルギー、交感、ダイナミズムなど、目に見えない要素が非常に大きい

No.31 「熱」 ☆☆☆

戯曲は、文字で書かれているが、生命を持つ一つの世界である。
機械的に書かれた作品は魅力がない。劇作家は、エネルギーを作品に注ぎ、「熱」を持った、生命の脈打つ戯曲作品を生みだしてほしい。
劇作技術は、良い作品を書く上で大事だが、技術ばかりで熱のこもっていない作品は評価が低かったりする。逆に荒削りでも、熱の注ぎ込まれた作品は、自然と観客の心を打ったりする。

No.32 FINAL 「新しいスタイル・自分のスタイル」 ☆☆☆

ストレート・プレイ、コメディー、ファルス、悲劇、ミュージカル、 不条理劇、児童劇、フィジカル・シアター、古典主義、自然主義、表 現主義、象徴主義……etc. 
様々な手法が生まれてきた。それぞれに 良い点、悪い点、特徴的な点がある。表現のスタイルは無限にある。 だから、新しいスタイルを模索していくというのはいいことである。そして、他人の物真似ではなく、自分のスタイルを確立すべき。


1 「三単一の法則」 12 「ト書き」 23 「想像力の喚起」
2 「制限→無限」 13 「台詞」 24 「日常の断片」
3 「潜在的矛盾」 14 「独白と傍白」 25 「登場人物数の制限」
4 「発見と急転」 15 「ギャグで笑い」 26 「メインフォーカスとサブフォーカス」
5 「普遍性」 16 「状況の構築で笑い」 27 「因果」
6 「社会的テーマ」 17 「コメディーの奥義」 28 「葛藤と対立」
7 「キャラクター設定」 18 「言葉遊び」 29 「両極性」
8 「ストーリー性」 19 「台詞のテンポ」 30 「芸術性」
9 「虚構」 20 「オーバーテクスト&サブテクスト」 31 「熱」
10 「ドキュメンタリー性」 21 「メタファー」 32 「新しいスタイル・自分のスタイル」
11 「構成とプロット」 22 「演出家的視点」  

別役慎司の実戦的劇作法


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別役慎司のPractical Dramaturgy