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シラーは哲学者としても図抜けている 「美学芸術論集」

フリードリッヒ・フォン・シラーといえば、ゲーテと同じ時代を生きた劇作家・詩人・哲学者ですが、
世界のイメージとして、「劇作家」「物書き」という印象が強いものです。

これはかなり偏見です。
もし、シェイクスピアが戯曲ではなく、哲学書のようなものを書いていたら?
おそらく、一級のものが世に残っているでしょう。

劇作家・詩人というイメージが固まっていますが、シェイクスピアも図抜けた思想を持っていました。


シラーもそうです。

ぼくも知らなかったのですが、この人の思想・哲学はとんでもなく高い境地にいっています

読んでいると、キリストやブッダのようなイメージです。
「奇跡のコース」を読んでいるみたいな箇所すらあります。

最近アドラーとか見直されていますけど、真面目にシラーに再スポットを当てたらいいと思います。
「カリアス書簡」も素晴らしいですが、「人間の美的教育について」は、超一級の哲学書です。

彼は、ギリシアの時代が素晴らしかったのは、
「その自然は芸術のすべての魅力、智慧のすべての尊厳と結びついており、しかも我々の自然のようにそれらの犠牲になどなっていません」
「形式も内容も充実し、哲学的で同時に造形的で、優美で同時に精力的で、空想の若々しさと理性の男らしさがみごとな人間性のなかで統一されているのです」
と理由を述べます。

これは、素晴らしい分析ですね。
なぜ、ぼくがギリシア悲劇に強い関心を抱いたのか、その謎の答えにもなっています。
どうしてかわからない魅力をよく解明しています。

ギリシアの場合、自然と一体でありながら人間的、という模範的な芸術だったのです。


そして、シラーは、西洋社会が一体性から離れていき、理性や哲学で部分的な事象を捉えることになったがゆえに、
ある意味では、国家のように統合としたまとまりとしては機能不全となり、ある意味では科学の発展や人間の成長に寄与したといいます。

シラーはとても大きな視野で、人間や西洋社会を見ていたことがわかります。

で、そんな社会だと、国家などの権力に盲従し、哲学者や科学者の部分的な事象を捉えた説に振り回され、
自己を見失い、狭い範囲でしか能力を発揮できない人が多く生まれてくるでしょう。

いかに啓蒙していけばいいのか。政治的な腐敗堕落にも関わらず、個々人を高尚にしていくにはどうすればいいのか。
(今の時代にそのまんま当てはまっています)

その答えが芸術であるといいます。

シェイクスピアも芸術というツールで政治的なメッセージを発したように、
芸術というのは有効なツールです。

シラーは「芸術と学問は人間の恣意から絶対的な治外法権を享受しているのです」といいます。

 

しかし、理想は簡単ではないということをシラーはよく知っています。
「学問は人に気に入られようとし、芸術は楽しませようとする」こともあれば、
「学問は厳格にその領域を守り、芸術は規則の重い束縛に従う」ことがあります。

真と美が、卑俗な人間性に埋もれてきたことが長い時代あるのです。

まさしく、現代もその通りです。

 「芸術家は自分の時代の子ですが、もし彼が時代の弟子であったり、さらにはそのお気に入りであったりすればなおされ、彼にとって災いです」
といっていますが、その通り、芸術家がただ時代を映すだけの存在だったり、時代に迎合していたりすれば最悪です。

「彼は、質料(おそらく題材)は現代から取るでしょうが、形相(おそらく形式)はあのより高貴なる時代から、いや、あらゆる時代の彼方、自己の本質の絶対的不易の統一から取ってくるでしょう」
といっています。

まさしく、これはぼくが劇作家として10代の頃から意識していることです!

 

ここからは、ぼくにとっても大事な智慧です。

「芸術家はあらゆる側面から取り囲む自分の時代の腐敗から、どのようにして身を守るのでしょうか。それは彼が時代の判断を軽蔑することによってです。彼は自己の尊厳と法則とを仰ぎ見るべきであって、幸福とか必要など下の方は見るべきではありません」

つまり、時代の評価や周りの評価など気にするな、金や地位を求めるという下のレベルで芸術をするな、ということです。

なんでこんなにもシラーは真をついているのか不思議ですが、
とても響きました。

このあと、シラーは、神が代弁しているかのごとく、こんな助言を送ります。

「時代の一切の抵抗にかかわらず、おのれの胸の気高い衝動を満足させるにはどうしたらよいかを知りたいと思っている真理の若き友に、私は次のように答えるでしょう。君が働きかける世界に、善に向かう方向を与えなさい。そうすれば、時の穏やかなリズムがそれをうまく発展させてくれるでしょう。もし君が世界を教化しながら、その思想を必然的なもの、永遠なものへと高めるならば、また行動したり形成したりしながら、この必然と永遠を世界の衝動の対象に変えてしまうならば、君はこうした方向を世界に与えたことになるのです

「君の心の慎み深い静けさのなかに勝利を収める真理を育て上げなさい。そしてそれを君自身のなかから取り出して、美の中へと打ち立てなさい」

「君の時代とともに行きなさい。しかしその所産であってはなりません。君の同時代人に惜しみなく与えなさい」

もう、神です。悟りの境地です。
そして、このことがぼくは痛切によくわかります。


もう、ブログをここまで読んでいる人もあまりいないでしょうけど、
いいんです。ぼくの備忘録的に書いているので。

とにかく作品を創り、認められようともせず、世間的に売れるものを狙おうともせず、
しかし、その時代から完全に生まれたものであり、世に善なる方向性を与える、真と美の芸術を、
時間など気にせず創造していきなさい。真の芸術作品は永遠のなかに溶け込む。
と、こういうことです。 

 

他にも本当にすごいことがたくさん書かれているんです。
翻訳が古くて、どれだけ正確なのかもわからず、そこが残念ですが。
シラーの「美学芸術論集」。

現代の偉大な思想家が書いたかのようなすごさがあります。

 

シラー 美学芸術論集 冨山房百科文庫

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