「シーサイド −SEA-SIDE−」    作:別役慎司  
 
 
■登場人物
<シーサイド>
・エイリオ……泳げない少年
・ビルート……勝ち気な少年
・シーシース……勝ち気な少年
・ディアナ……年老いた女の長老
・イーオ……力強い大人の女性
・エフロディーテ……美しい大人の女性
・ジル……心優しき病気の少女
・エイティス……エイリオの姉
・アイ……無邪気な幼き少女
・ジェイク……リーダー格の大人の男性
・ケイモス……勇ましいが抜けてる男性
・エルリア……神秘的な女性(姉)
・エムニア……神秘的な女性(妹)
・エヌール……神秘的な予言者の女性


 

<ランドサイド>
・イセビ……シーサイドを訪れる少年
・ロウヤ……シーサイドを訪れる少年
・ハクセン……シーサイドを訪れる少年
・ニレ……シーサイドを訪れる少女
・ワビスケ……シーサイドを訪れる男性











         男:9 女:10
 
舞台はT字型。舞台前面は張り出し舞台で、ここがメインのアクティングエリアとなる。舞台後ろはプロセニアムのステージ上。その奥にはホリゾントがある。客席側が海の方角になる。
 
 
「シーサイド」
海岸に伸びる漁師たちの集落。小さな国。海の力強い恵みを受けて、たくましく暮らす民族。シーサイドのものたちは青色の衣服を着ている。
 
 
OPENING
 
客電が落ち、スクリーンに、波打つ海の風景が現れる。
音楽。照明がつく。
    役者たちが登場。(スクリーンは収納され、映像は消える)
    「海のダンス」
 
 
SCENE1
 
   前方エリアにて、ジェイク、ケイモス、ビルート、シーシース、エイリオ。5人の男たちは、網を引き揚げている。
   後方エリアには、ディアナ、イーオ、エフロディーテ、アイ、エイティスが、網が引き揚がるのを待っている。アイは、長老ディアナのそばで恐そうに見ている。
   (網や魚はパントマイムで行う)
 
ジェイク それ、もう少しだ! 引き揚げろ!
ケイモス 今日も大漁だ!
エイリオ (転ぶ)
シーシース (エイリオ)おい、しっかりしろ!
ビルート (エイリオに)邪魔だ、どいてろ!
ジェイク それ、がんばれ!
 
   イーオがエイリオのところに。
 
イーオ あたしが代わるわ。どいてなさい。
 
   エイリオ、後方の女たちのほうへ。
 
エイティス (エイリオに)情けないな。
エイリオ (疲れてへたりこむ)
 
   力強く網を引いていく。
 
ディアナ (アイに)ほれ、あともう少しだ。
アイ お魚いっぱい?
ディアナ ああ、いっぱいだよ。網が揚がったら、アイもお魚を捕るんだよ?
アイ うん、がんばる。
ケイモス もう一踏ん張りだ!
 
   ようやく網が陸に上がる。
   喜ぶ皆。
   女たちが網に駆け寄って、網に引っかかった魚をカゴに入れる。ディアナは微笑ましく眺めている。
 
ビルート よっしゃ、今日もいい仕事したぜー!
ジェイク お前たちは日に日にたくましくなっていくな。
シーシース そのうちジェイクさんを追い抜きますよ。
ビルート それにしてもエイリオのやつは情けねーなー。
シーシース エイリオ、お前海に入ってないんだから、魚入れろよ。
ビルート 女みてーだな。
エイリオ ごめん、もう動けない……。
ビルート そんなんだから泳ぎもできないんだよ。
シーシース お前、16にもなって泳げないって、シーサイドの恥だぞ。
ジェイク シーサイドの男は、この海で泳げるようになってこそ、一人前の男として認められる。早く海に入って、漁ができるようにならないとな。
ケイモス ずっと泳げないんじゃ、ランドサイドの連中と同じだな。
ビルート なんですか、ランドサイドって?
シーシース ビルート、お前、そんなことも知らないのかよ?
ビルート なんだよ、いえよ。
シーシース そういう国があるんだよ。
ビルート どういう国だよ?
ジェイク ケイモス、余計なことをいうから。
ケイモス まぁ、いいじゃないか。
シーシース ちょっと、ちょっと、なんですかランドサイドって?
ジェイク 陸地のずっと奥に住む民族だ。
ケイモス 我々とは正反対の軟弱な連中だ。海から逃げて何百年もひっそりと暮らしてるという。
ディアナ これこれ。知りもしないで勝手なことをいうんじゃない。
ケイモス だってそうでしょ、長老? おれがちっちゃい頃は、怠けてるとランドサイドみたいになっちゃうぞって、よく叱られましたよ。
ディアナ ランドサイドは陸地の奥深くで、山川草木に囲まれて悠々自適に暮らす、平和的で静かな民族だ。
ビルート へぇ〜、面白いな。
シーシース 会ってみたいな。
ディアナ 昔、何十年も前にランドサイドから一人の男が訪れたことがあったが、海を見て腰を抜かしていたな。
ビルート 情けないなぁ。
ディアナ まぁ、生まれて初めて目にしたのなら無理のないことだ。
ジェイク そうですね。我々のように海とともに暮らす民族であっても、巨大で恐ろしいと感じることがしばしばですから。
 
   アイ、魚をカゴに入れて、ディアナの所へ。
 
アイ 見て見て、お魚ー。
ディアナ おお〜、よく捕れたね〜。
アイ えらい?
ディアナ えらいよ〜。
アイ 強い?
ディアナ 強いよ〜。
アイ えへへ。みんなに見せよー(喜んで走っていく)
ディアナ これこれ、待ちなさい。
 
   アイ、ディアナ、退場。
 
イーオ (カゴから取り出して)見て、こんなにおっきい!
エフロディーテ すごいわ。でも、おたくの旦那は身体が大きいからそれぐらい食べちゃうんじゃないの?
イーオ ペロリだね。
 
   イーオとエフロディーテ、大漁の魚をカゴに入れて、喜びながら去っていく。
 
ジェイク よし、網をまとめるか。
ケイモス おお。
 
   ジェイクとケイモス、網にひっかかった海藻などを取り除き、たたむ作業に入る。
   エイティスはじっとエイリオを見ている。
 
ビルート (エイリオを立ち上がらせて)おい、立てよ。
エイリオ なんだよ。
ビルート 泳ぎを教えてやるよ。
エイリオ いいよ。
ビルート おれが鍛えてやるって。
エイリオ いいって。もう疲れてるんだよ。
ビルート あんなので疲れるか? おれが鍛え直してやるって。
エイリオ 今、海になんて入ったら死んじゃうよ。
ビルート 死なねぇ、助けてやる。
シーシース 無理だよ、そいつ。
ビルート 意気地なしが。
シーシース 向こういって遊ぼうぜ。ヒトデ岩でヒトデ投げだ。
ビルート なんかもっと面白い遊びないんかなぁ?
 
   ビルート、シーシース、退場。
   エイリオ、また座り込む。
   エイティス、エイリオの隣に座る。
 
エイティス 悔しいか?
エイリオ 別に。あんな奴ら。
エイティス 違う。自分にだよ。
エイリオ ……。
エイティス 親父に近づくどころか、どんどん腑抜けになってくな?
エイリオ ……。
エイティス (ため息をついて)お前は弱いんじゃない。ただ勇気がないだけだ。
エイリオ ……。
エイティス お、ジルだ。(立ち上がる)
 
   ジル、登場。
 
エイティス 外を歩いて大丈夫なのか?
ジル 今日は調子がいいんです。
エイティス そうか。
 
   エイティス、去る。
 
ジル おはよう。
エイリオ ……ぉはよぅ。
ジル 元気ないね。また悩んでるの?
エイリオ ううん。ちょっと疲れただけ。
ジル そう。今日は大漁だった?
エイリオ うん。調子はどう?
ジル 大丈夫。
エイリオ 早く治るといいね。
 
   ジェイクとケイモス、網をたたみ終わる。
 
ケイモス よーし。次は、もう少し北の三日月入江あたりに仕掛けてみよう。
ジェイク そうだな。(ジルを見て)あまり潮風に当たりすぎて身体を冷やさないようにな。
ジル はい。
ケイモス 病気は厄介だな。おれのじいちゃんもばあちゃんも、病気で亡くした。
ジェイク ケイモス。お前は正直すぎるというか、もう少し言葉を考えろ。
ケイモス まずかったか?
ジェイク 悪かったね。よく寝るんだよ。
ジル ありがとうございます。
 
   ジェイクとケイモス、退場。
   エイリオとジル、立ち上がり二人を見送る。
 
ジル ……わたしの病気……治るのかなぁ?
エイリオ 治るよ。
ジル じゃあ、わたしの病気が治るのと、エイリオが泳げるようになるのどっちが先かなぁ?
エイリオ 競争してみる?
ジル エイリオが泳げるようになったら、その嬉しさで、わたしの病気も治る気がする。
エイリオ じゃあ、がんばらなきゃ。
 
   笑顔の二人。
   二人、退場。
 
 
 
SCENE2
 
   波の音。
   クリーム色の衣服を着た少年3人と少女1人がやってくる。ランドサイドのものたちだ。目をキラキラさせている。
   ハクセン、ロウヤ、ニレは、海を見て喜びを爆発させる。
 
ハクセン うおー! 見ろ! あれが海じゃないのか?
ロウヤ あれが海かー! やった、やった! 遂に海を見れたぞ!
ニレ 待てよ、海ってのは怪物みたいなやつなんだろ? ホントにそうか?
ハクセン 落ち着け! おれが聞いてやる。
ロウヤ ダメだって。シーサイドのものたちと接触するのは御法度だ!
ニレ 今さら関係ないだろ?
ハクセン 違うよ、ロウヤ、馬鹿かお前。こうやって聞くんだよ。
 
   舞台袖近くにエイリオ登場。
   イセビと目があって、二人硬直している。
 
ハクセン おーい、あんたは海かーい?
ロウヤ (ハクセンの頭をはたいて)お前こそ馬鹿だろ!
ニレ 海は生きてないのか? ガオーって襲ってくるんじゃないのか?
ロウヤ 海ってのは空とか川みたいな自然の一部なんだよ、たぶん。
ニレ お〜〜。
イセビ ……ハクセン……。
ハクセン なるほどな。おい、イセビ、お前はどう思う?
 
   ハクセンたち、イセビの方を見る。固まっている二人。
 
ハクセン・ロウヤ・ニレ うあー−!
 
   エイリオ、逃げる。
   跳び上がるハクセン・ロウヤ・ニレ。
 
ハクセン 今の……今の……!
ロウヤ 絶対シーサイドだ!
ニレ 見られたぞ? 逃げるか?
ハクセン いや、追いかけるしかないだろ?
ロウヤ 追いかけるのかよ?
ハクセン いやっほー!
 
   ハクセン、ロウヤ、ニレ、エイリオを追いかけて退場。
   吸い込まれるように海を見つめているイセビ。
 
イセビ あれが……海……。すごい……。(周りを見回し)あれ? ハクセン? ロウヤ? いけない。
 
   イセビ、追いかけようとしたとき、またエイリオ登場。
   さっきと同様に目が合って硬直する。
 
イセビ あの……シーサイドの……方ですか?
エイリオ はい……。
イセビ あ……あぁ〜。どうも。
エイリオ もしかして……ランドサイドの……方ですか?
イセビ はい……。イセビというものです。
エイリオ あ……ぼくは、エイリオです。
イセビ あ、どうも……。
エイリオ どうも……。
 
   会釈して、お互い血相を変えて逃げ去る。
 
 
 
SCENE3
 
   ヒトデ岩付近。
   シーシース、走って登場。岩陰に隠れる。
   ビルート、走って登場。キョロキョロ探す。
   シーシース、岩陰から出てきて、ヒトデを手裏剣のように投げる。
 
ビルート うおっ! そこにいたか!
 
   ビルートもヒトデを手裏剣のように投げて応戦する。
   シーシース、岩陰に隠れる。
 
ビルート くそっ。ヒトデ切れだ。
 
   ビルート、去る。得意げなシーシース。
   そこにハクセン、ロウヤ、ニレがやってくる。
 
ニレ どうすんだよ〜。イセビがはぐれちゃったぞ。
ハクセン どっかで会えるだろ。
ロウヤ 見ろよ、ここの岩。すげぇでかい。
ニレ ランドサイドにここまでの岩はないなぁ。なにもかもがでかい。
 
   シーシース、気配を感じて、岩陰から勢いよく飛び出して手裏剣を構える。
 
シーシース あ。
 
   ランドサイドの三人と目が合って硬直。
 
ハクセン うわぁ、また会っちまった!
シーシース おい、お前ら何者だ! ビルート! 
ロウヤ すげぇ、またシーサイドだ!
シーシース おーい、ビルート!
 
   ビルート、元気よく登場。
 
ビルート じゃーん、ヒトデ手裏剣補充〜!(ランドサイドの三人を見て)おおっ、なんだなんだ?(とりあえず手裏剣を構える)
ロウヤ うおっ、ちょっと待ってくれ! あんたらシーサイドの人たちだろ?
ニレ あたしたちはランドサイドから来たんだ。
シーシース ランドサイドー? ランドサイドって、あのランドサイドか?
ニレ よくわかんないけど、そうだ。
ビルート すげぇ、マジで?
ハクセン マジマジ。
ビルート おお〜。
ハクセン おお〜。
 
   変なテンションで意気投合する少年たち。
 
シーシース ランドサイドってめちゃくちゃ遠いんだろ?
ロウヤ そうでもなかったよな?
ハクセン 一日とちょっと。
ビルート よく来たな!
シーシース 一体、なんのために来たんだ?
ハクセン いやぁ、冒険というか、シーサイドがどんな所か見てみたくてよ。
ロウヤ (指さして)なぁ、あれが海だろ? 
ビルート そうだ、海だ。
 
   そこに、イーオとエフロディーテが通りかかる。
 
イーオ あんたたちは誰?
ニレ やばい、人が増えてきちゃった。
エフロディーテ 見たこともない衣服。もしかして……
シーシース こいつら、ランドサイドから来たんだって。
エフロディーテ やっぱり。長老に連絡しなきゃ。
ニレ あー、別にあたしたちはちょっと海を見物しにきただけなので……すぐに帰ります。
エフロディーテ そういわれても……
イーオ なにかあったら大変だね。
ロウヤ いやいや、なにもしませんよ。
ビルート 大丈夫だよ、イーオさん、エフロディーテさん。ランドサイドって軟弱な民族なんでしょ?
ハクセン 軟弱だって?
ビルート 海から逃げて、奥地でひそひそ暮らしてるんだろ?
ロウヤ おい、なんだよ、そのいいかた!
ニレ こっちこそシーサイドが荒くれものたちだって聞いてきたのに、弱そうな連中で拍子抜けだ。
シーシース なんだとー! シーサイドをなめんなよ!
ロウヤ ランドサイドをなめんなよ!
ビルート じゃあ、力比べでもするか?
ハクセン こっちこそ。おれたちはそのつもりで来たんだ!
エフロディーテ やめなさい。遠い国からのお客人でしょう?
イーオ い〜や、侮辱されて黙ってられるわけないだろ?
エフロディーテ 止めてよ。
イーオ いいんだよ。面白いじゃないか。
ニレ やっちまえ、ハクセン、ロウヤ。
ハクセン・ロウヤ おう!
 
   そこに、イセビとエイリオが現れる。
 
イセビ どうしたんだ?
エフロディーテ また一人ランドサイドが。
イーオ エイリオ、そいつと何をしていたんだ?
エイリオ え? 友達を探しているというから一緒に……
ビルート 一緒にだと? バカやろう、そいつは敵だ。(エイリオを叩く)
イセビ おい、やめろよ。
ビルート なんだと、てめえ? ランドサイドのくせに生意気なんだよ。
エフロディーテ 落ち着きなさい。
イーオ 止めることないよ。ただの力比べだ。いいかい、ランドサイドの少年たち? シーサイドは、力が強いもの、泳ぎがうまいものをより立派な男だと認める。もし、力比べをしてあんたたちが勝ったら、シーサイドを好きなように出歩いていい。あたしが長老に掛け合ってやる。だが、もし負けたら頭を下げてとっとと故郷に帰るんだね。
ビルート よしっ。じゃあ、おれはこいつとやる。(ハクセンを指さす)
ハクセン 望むところだ。
シーシース じゃあ、おれはお前だ。(ロウヤを指さす)
ロウヤ やってやるぜ。
イーオ エイリオ。あんたは、そいつと闘いな。(イセビを指さす)
エイリオ 待って。ぼく、喧嘩なんて嫌だよ。それにイセビはいいやつなんだ。
ビルート なに甘えたこといってんだ。男を見せてみろよ!
ニレ あたしがあんたと闘うよ。(イーオを指さす)
イーオ 女は闘わない。女の強さは男を支える強さだ。支えられるものほどシーサイドでは認められる。
ニレ ちっ、女扱いするなよ。
ロウヤ お前は引っ込んでたほうがいい。
イーオ よし、決まりだ。あんたたちの決闘はあたしがちゃんと見届けてあげるよ。
エフロディーテ いけない。
 
   エフロディーテ、長老に報告するために去る。
 
イーオ まずは、あんたたちだ。(ロウヤとシーシースを指す)
ロウヤ よし、負けねーぞ。
ビルート 絶対勝てよ。
シーシース おお。
 
   ビルート、ハクセン、ニレは声を上げて応援する。
   イセビとエイリオは、「なんでこんなことになってしまったんだろう」という表情。
 
イーオ はじめ!
 
   シーシースとロウヤ、闘い始める。組んで投げたり、殴り合ったり。
   シーシースが優勢になり、ついにロウヤを打ち負かす。倒れ込むロウヤ。
 
ニレ 大丈夫か?
ロウヤ くそ〜……!
イーオ 勝負あり。シーシースの勝ちだ。
シーシース 当然。やっぱりランドサイドは軟弱なヘロヘロ野郎どもだ。
ハクセン なんだと〜?
イーオ 次はあんたたちだ。(ハクセンとビルートを指す)
ハクセン おれが敵を討ってやる。
ビルート 海で鍛え上げたおれたちに敵うと思うなよ。
イーオ では、次の勝負、はじめ!
 
   ビルートとハクセン、闘い始める。最初はハクセンが技を駆使して優勢。だが、ビルートの力のほうが上回る。
 
ハクセン くそっ、この砂が動きにくい。
 
   取っ組み合いになる。
   ビルートの体当たりが炸裂し、ハクセンは飛ばされる。それをイセビが受け止める。
 
イーオ 勝負あり!
 
   喜ぶビルートとシーシース。
 
イセビ 大丈夫か、ハクセン?
 
   ニレも駆け寄る。
 
イーオ ビルートの勝ちだ。
ビルート なかなかいいセンいってたけどな!
イセビ もういいだろう? 二人ともケガしてる。帰ろう。
ニレ なにいってんだよ、まだお前が残ってるだろ!
イーオ 次。エイリオ、出番だよ。
エイリオ もう二勝して勝負がついたじゃないか。闘う必要はないよ。
イーオ お前の男としての闘いが残ってるだろ? それに、このまますごすごと帰るつもりかい、ランドサイドの少年たち?
ハクセン ちくしょう! お前だけでも勝ってくれ!
ニレ イセビ、やってくれ!
ロウヤ 頼んだぞ!
シーシース しっかりやれよ、エイリオ。
ビルート 負けたら許さねーぞ。
 
   イセビ、闘いの準備をする。
 
エイリオ イセビ……。
イセビ 知り合ったばかりで申し訳ないけど……。
イーオ これで勝てば、お前はみんなから認められるぞ。
エイリオ うぅ……。
 
   ジルが、現れる。離れて心配そうに見ている。
 
エイリオ (気づいて)ジル……。(気を締めて、イセビの方に向き直る)
イーオ よし、では最終戦。はじめ!
 
   イセビとエイリオの闘いが始まるが、エイリオは逃げ腰。イセビにすぐに倒される。ビルートたちから、脅しがかかり、エイリオはイセビにぶつかっていくが、イセビにいいようにやられてしまう。
 
イーオ そこまで! ランドサイドの少年の勝ちだ。(ため息をつく)
シーシース なんだよ〜……。
ビルート 情けねぇ。最低の弱虫野郎だな。
 
   エイリオ、泣き出す。
 
イーオ (イセビに)約束通り、シーサイドはあんたを歓迎しよう。
イセビ (すまなさそうにエイリオに近づく)
ビルート (ハクセンに)おれはお前を認めるぜ。仲良くしよう。(握手を求める)
ハクセン (ビルートの手を払い)ふざけるな……。お前ら、今に見てろよ。絶対、何倍にもして返してやるからな。
ロウヤ 戦争だ。
ハクセン そうだ!
シーシース 戦争?
ロウヤ ランドサイドの仲間を連れてきて、お前たちなんかぶちのめしてやる。
シーシース おいおい、ただの力比べだぞ。
ロウヤ うるさい!
イーオ 困ったね。本気かい?
ビルート へっ。負け犬の遠吠えだ。
ハクセン ランドサイドに帰るぞ。
イセビ 待ってくれ。(エイリオが気になっている)
ニレ 行こう。
 
   ハクセン、ロウヤ、ニレ、去る。
 
イセビ ごめんな、エイリオ。(手を差し出す)
エイリオ (手をはたく)
イセビ (木彫りのペンダントを外し)……これ、あげるよ。友情の印に。(首にかけてやる)
シーシース (イセビの肩を抱き)おい、一緒に飯を食おうぜ。海で捕れた魚を食べさせてやる。
ビルート お前強かったよ。(エイリオに)お前はランドサイドに連れて行ってもらったらどうだ?
シーシース お似合いだな。
ビルート (イセビに)こいつは、いつも女と一緒にいる甘ったれたやつなんだ。
シーシース 泳げもしない。
ビルート お前は泳げるのか?
イセビ ……まぁ。
ビルート おぉ。やっぱ男はそうだよな?
シーシース 行こうぜ。
 
   シーシースとビルートがイセビを連れて行こうとする。
 
エイリオ (すっくと立ち上がり)イセビ! 今度は泳ぎで勝負だ!
イセビ ……。
エイリオ 明日、この砂浜で待ってる。
イセビ ……すまない。
 
   イセビ、ハクセンたちを追いかけるように去る。
 
シーシース おい。
エイリオ くそぉ……。
ビルート (遠くにディアナを見て)やべっ、長老が来るぞ!
シーシース 隠れろ。
イーオ こらっ!
ビルート あとは頼んます!
 
   ビルートとシーシース、逃げるように退場。
   ジル、エイリオの所に。
 
ジル 大丈夫……?
 
   ディアナ、アイ、エフロディーテ登場。
 
ディアナ 一体何事だい? ランドサイドのものたちは?
イーオ 今、去っていきました。
ディアナ 決闘をさせていたというのは本当か?
イーオ はい……。
ディアナ なんと馬鹿なことを……。はるばる遠くから訪れたというのに。
イーオ すみません。
エフロディーテ (エイリオに)大丈夫? ケガをしてるじゃない?
 
   エイリオ、走り去る。
 
ジル エイリオ!
 
   ジル、長老に会釈して、エイリオを追う。
 
イーオ すみません……。
ディアナ よからぬ事に発展しなければよいが……。
アイ (空を見て)雲。黒い雲。
エフロディーテ (空を見て)……嵐が来そうな曇り空。
ディアナ なにがあったのか、詳しく話を聞かせておくれ。
イーオ はい。
 
   皆、去る。
 
 
 
SCENE4
 
   崖。
   打ちつける波と風の音。
   エヌール、そしてエルリアとエムニアが歩いてくる。
   (*18人バージョンの場合はエルリアとエムニアのみ)
 
エムニア 姉さん。雲の動きが速くなってきたわ。
エルリア 嵐が近いわね。
エムニア おかしな雲の流れ。
エルリア この崖から毎日のように景色を見てきて、こんな謎めいた雲は初めて。
エムニア 姉さんが見た夢の、黄色い服の人たち。
エルリア ええ。少年たちが来たそうな。
エムニア 大地の神が見守る国、ランドサイドから来た若き魂。
エルリア 海と陸は決して交わらない。
エムニア この近づく嵐は海の神様の警告かしら。
エルリア 神様の声にもっと耳を傾けなければ。
エムニア 怒りであれば、大きな災いとなろう。
エヌール 行きましょう。
 
   三人、去っていく。
   エイリオとジルがやってくる。前方エリアに来て、エイリオは座り込む。
 
エイリオ 放っておいてよ。
ジル 今日は漁を手伝って疲れてたのよ。
エイリオ 見てたろ? 疲れとか関係ないんだ。ただ、臆病なだけなんだ。
ジル 臆病っていわないよ。優しいっていうのよ。
エイリオ 優しいのはジルみたいな子をいうんだよ。ぼくは男なのに意気地なしで、振り絞ってもひとしずくの勇気も出てこない……。
ジル でも、泳ぎの勝負をしようっていったじゃない。勇気あるって証拠よ。
エイリオ でも無視された……。
ジル 無視してないと思うよ。仲間を追わないといけなかったのよ。
 
   エイリオ、懐からペンダントを取り出す。ペンダントトップは木彫りで、大樹をかたどっている。
 
ジル それさっきの?
エイリオ うん。
ジル 木彫りのペンダントだ。いっぱいの葉をつけた大きな樹に見えるね?
エイリオ こいつを突き返せばよかった……。
ジル もらっておけばいいじゃない。誰も持っていないんだもん。宝物にしたらいいよ。
 
   エイティスがやってくる。
 
エイティス 二人ともここにいたのか。色んな噂でもちきりだぞ。ランドサイドの少年たちと対決したんだってな。それで負けてしまったか……。(ジルに)ジル、弟のことを心配してくれるのは有り難いんだが、自分のことをもっと気遣ってくれ。病気を治 すことに専念した方がいい。見ろ、雨が降り出しそうだ。濡れるといけない。早くお帰り。
ジル はい……。(エイリオに)じゃあね。明日も調子がよかったら出てくるね。
エイリオ うん……。
 
   ジル、退場。
 
エイティス あのイセビってやつは、なかなか精悍な顔立ちをしている。泣き虫なお前じゃ勝てないわな。
エイリオ うるさい!
エイティス 悔しがってるだけ進歩だな。
エイリオ (はっとして立ち上がる)イセビを見たの?
エイティス ああ。
エイリオ ランドサイドに帰ったんじゃ?
エイティス あいつだけ戻ってきた。今晩は、長老が歓迎の宴を開くそうだ。まったく、ただでさえ肩身が狭い思いをしているのに、あまり恥ずかしい思いはさせないでくれよ。いけない。ホントに雨がきそうだ。じゃあな。
 
   エイティス、去る。
   ぱらぱらと雨の音がしだす。
 
エイリオ ……勝負をする気だ。……よし。
 
   暗転。
   強くなる雨の音。
 
 
 
SCENE5
 
   長老の館。
   舞台後方の中央にディアナ。その横にはアイ。平行列で舞台前方に伸びる形でシーサイドのものたちが向かい合って並んでいる。下手側にイセビ、ジェイク、ケイモス、エイティス。上手側にイーオ、エフロディーテ、ビルート、シーシースが並んでいる。彼らは食事をしている。また、ディアナの両脇のエリアでは、エルリアとエムニアが楽器を叩き、それに合わせて中央でエヌールが舞を舞っている。
 
ディアナ どうだい、イセビとやら。海で獲れる魚はおいしいだろう?
イセビ はい。川の魚よりも大きくて身が締まっています。
ディアナ 我々は非礼を詫びなければいけない。どうか好きなだけ食べてくれ。
イセビ ありがとうございます。こちらこそ、勝手にこの国に入ってきてしまい申し訳ございません。
ケイモス ビルート、シーシース。お前たちが闘ったランドサイドたちは強かったか?
ジェイク 先ほど長老からお咎めがあったばかりなのに、お前は喋る前に少し考えろ。
ケイモス まずかったか?
アイ ダメだね〜。
ケイモス 失敬、失敬。
エフロディーテ 相手を軟弱だと侮蔑したのが争いの発端でしょう。いつなりとも他者を敬う気持ちをもって然るべきです。
ディアナ その通りだ。
アイ その通りだ。
シーシース すみません。
ビルート 反省してます。ケイモスさんが軟弱だっていってたから。
ケイモス う〜む、おれが悪かったのか。
アイ ダメだね〜。
イーオ 戦争だといっていたのが気にかかります。
ディアナ ランドサイドは争いを好まない、平和を愛する民族なはずだ。そうだろう?
イセビ はい。まさか戦争などには。
ビルート よかった。
ケイモス 君は、いつ帰るんだ?
イセビ 明日、用事を一つ済ませたら、ランドサイドへ帰ろうと思っています。
 
   楽器が止まり、舞も止まる。
 
ディアナ そうか、もう少し留まっても……(舞が止まったことに気づき)どうした?
エルリア いえ……申し訳ございません。
 
   舞が再開される。
 
エフロディーテ ところで……ランドサイドは古くから薬草を調合して、傷や病気を治してしまうという伝説がありますが……それは本当ですか?
イセビ 伝説といってしまうと大げさですが、花や草木から様々な薬を作りますね。
エフロディーテ それはすごい。
ビルート ケガばかりするおれたちにはいいなぁ。
ケイモス ふん。ケガなど海の水に浸せばすぐ治る。
ジェイク お前、それはどうかと思うぞ?
ケイモス 変か?
アイ いたそう……。
エイティス あの……! もし、それが本当なら、エイリオの友達で、ずっと原因のわからない病気で苦しんでいる子がいるんです。
ディアナ ジルだね。
エイティス もしかしたら、治せたりしないでしょうか……?
エフロディーテ (期待を込めて)そうね。
イセビ 私はあまり詳しくないので……。ランドサイドに戻れば専門のものがおります。薬草もランドサイドでないと採れませんし、一度長老に相談を持ちかけてみます。
エイティス 是非お願いします!
ジェイク ちょっと待った。何百年も両国は交流がないんでしょう? もっと慎重に考えてください。
ケイモス 確かに問題だ。
ディアナ そうだな。軽率にはできぬ。
エイティス でも……ジルの病気は、わたしたちで打つ手がありません。
イーオ 潮風を浴びていれば、海の神様の恵みで自然に治るよ。
エイティス そう、まじないのようにいいますが、病で亡くなるものが多いのも事実です。ジルの他にも病気のものはたくさんおりますし、私の父のように、大ケガをして、満足な治療も出来ず死んでいったものもおります。
イセビ ……。
エフロディーテ ランドサイドの薬草の技術が本物であれば、交流を通してとても有益な恩恵を得られることでしょう。
ディアナ ふむ……確かに。どう思う、エヌール?
 
   エヌール、舞を止める。
 
エヌール 大きな嵐が過ぎたときには、全て明らかとなるでしょう。この世の全てのことは自然に委ねることでうまくゆきます。自然な流れに身を任せれば、じきに結論に達することでしょう。
ディアナ そうか。それではしばし待つとしよう。
エヌール シーサイドにはびこる病、ランドサイドの民の訪問、すべて意味があるでしょう。  
ディアナ 災いか?
ケイモス 災いであればすぐに手を打たねば。
エヌール 今はわかりません。全て自然に任せるのです。波に身を委ねてください。海の神は必ずやお導きくださいます。
 
   再び、舞が始まる。
 
ディアナ シーサイドの永遠なる安定と繁栄を祈ろう。
 
   杯を掲げる。
 
ディアナ 我々は海の神によって守られている。
 
   暗転。
   雨と波の音。
 
 
 
SCENE6
 
   翌日。
   ヒトデ岩付近の砂浜。
   風の音。
   イセビが海に向かって立っている。
 
イセビ ……すごい……昨日とはまるで違う。さすが怪物というだけある。
 
   エイリオが現れる。
 
エイリオ (強気に構えて)よく来たな。
イセビ 海はこんなにも変化するものなのか? まるで生き物だ。
エイリオ びびったろ?
イセビ シーサイドの人間は、こんな海を自由に泳ぐのか?
エイリオ (一瞬言葉を詰まらせ)そ、そうだ。
イセビ 底知れぬ勇気と体力だ。
エイリオ ランドサイドは、泳ぎはできるのか?
イセビ まぁ、川や湖で泳いだことはあるが……海は想像がつかない。
エイリオ ……まぁ、天気も荒れてる……降参するんなら今の内だぞ?
イセビ いや……おれが自信と勇気を手に入れるにはこれしかない。さすがに勝てないかもしれないが挑戦してやる。
エイリオ 自信と勇気……?
イセビ おれ、ランドサイドに婚約者がいるんだ。シーサイドで自信と勇気を手に入れたら、結婚するって誓ったんだ。
エイリオ ……(意外に思いながらも強気な態度を崩そうとせず)へ、へぇ〜。じゃあ、溺れて死なないように気をつけるんだな。
イセビ ああ。死んだら、君の友達の病気も治してやれなくなるかもしれないからな。
エイリオ (反射的にガバッとイセビの襟をつかんで)おいっ、それどういうことだ?
イセビ ……ランドサイドに帰ったら、病気の薬を調合できるか長老に掛け合ってみるよ。
エイリオ ……お前。
 
   イセビの優しさに、強気な心が崩れそうになるエイリオ。
   そこに、ジルとエイティスが現れる。遠くで、エイリオを探している。
 
エイティス 本当に泳げないあいつがそんな挑戦をつきつけたのか?
ジル はい。(咳をする)
エイティス ジル、無理するな。あたしが探すから、あんたは戻ってな。
ジル (首を振る)
エイティス エイリオー!
エイリオ・イセビ ?
エイティス 雲行きが怪しい。こんな天気に海に入ったら命取りだぞ。
エイリオ 誰か来た。止められたらまずい。始めよう。勝負は、あの岩まで行って、どっちが先に砂浜に戻ってくるかだ。
イセビ わかった。 
エイリオ よ、よ〜し、やるぞ……。
 
   二人、草履を脱ぐ。エイリオは木彫りのペンダントを外す。
 
ジル 向こうだったと思う。
エイティス 本当なら早く止めないと。(二人を見つけて)いた! おーい、待てー!
ジル エイリオ!
 
   エイリオとイセビ、海(客席後方)に向かって走る。二人の姿が消える。
 
エイティス ああ! 馬鹿なやつだ! 泳げるわけない!
ジル そんな……。(顔を手で覆う)
エイティス あたし一人じゃ無理だ! 人を呼んでくる!
 
   エイティス、去る。
   ジル、ふらふらとペンダントの所まできてへたり込む。
 
ジル ……姿が……見えなくなった。二人とも……。
 
   下手袖際に、エヌール、エルリア、エムニアが現れる。
 
エムニア 姉さんが昨日見た夢の通り。
エルリア ええ。ランドサイドの少年は海に消えた。
エヌール 失ってわかるありがたみ。手にしてわかるありがたみ。大きな波が全てを飲み込んで、きれいに平らにしてくれる。
エムニア それが海の神の思し召し。
エルリア 大地の神と海の神が選んだのが、あの二人の少年なのでしょう。
 
   音楽。
   ホリゾント、青く染まり、暗転。
 
 
 
SCENE7
 
   雷鳴。
   ランドサイドのものたち(ワビスケ・ハクセン・ロウヤ・ニレ)が木の棒を持って登場。
 
ワビスケ (決死の形相で)どこだー! イセビを返せー!  
ハクセン おらー、出てこい!
 
   走り去る。
   シーサイドの女たち(イーオ、エフロディーテ)が逃げながら登場。
 
イーオ ランドサイドが攻めてきたー!
エフロディーテ みんな避難して!
イーオ 男共は戦闘の準備を!
 
   ジェイクが現れる。
 
ジェイク ランドサイドが攻めてきたというのは本当か?
イーオ かなりの数ですよ。あたしもみんなを避難させたら、戦うわよー!
ジェイク まさか本当に戦争になってしまうのか?
 
   イーオ、走り去る。
 
エフロディーテ イセビを返せと叫んでいます。イセビはどこに?
ジェイク わからない。すまんがイセビをすぐに探してくれ。おれは奴らを止めてみる。
エフロディーテ はい!
 
   ジェイク、エフロディーテ、去る。
   ランドサイドのものたちが、ワビスケを先頭に走ってくる。
 
ワビスケ イセビを捕虜にしていることはわかっているんだぞ! 早くイセビを出せ!
 
   ワビスケ、走り去る。
 
ニレ (ハクセンとロウヤをつかまえて)ねぇ、大丈夫なの? 大変なことになって来ちゃったよ!
ロウヤ もう後には引けないよ。とにかくおれたちも戦うんだ。
 
   ハクセン、ロウヤ、ニレ、走り去る。
   エイティス、現れる。
 
エイティス イセビが捕虜? どういうこと? なにがあったの? とにかく、早く助けを呼ばないと。
 
   ケイモスが銛を持って登場。
 
エイティス あ。ケイモスさん! 大変なんです。
ケイモス わかってる。
エイティス エイリオとイセビが海に!
ケイモス ランドサイドが攻めてきたんだろ? 
エイティス え? 
ケイモス おれ一人で蹴散らしてやる。(去っていく)
エイティス 違うんです、二人が海に入って、天気も荒れてきて……早く助けてほしいんです!
 
   ケイモス、退場。
 
エイティス ダメだ……。誰か、誰か!
 
   エイティス、走り去る。
   ビルートとシーシースが銛を持って現れる。
 
ビルート どこだやつら!
シーシース 本当に攻めてくるとはいい度胸だ。
 
   ランドサイドたち、現れる。
 
ハクセン あー!
ビルート てめぇ!
ロウヤ ワビスケさん、こいつらにやられたんですよ。
ワビスケ こいつらか!(棒を振り回して)なるほど噂通り野蛮な奴らだ。
シーシース そっちがだろ、いきなり攻めてきやがって!
ワビスケ 問答無用!(棒を振り回して襲いかかる)
 
   ジェイクが棒を持って現れる。
 
ジェイク ランドサイドがここまで。お前の相手はおれだ!
 
   ジェイク対ワビスケ、ビルート対ハクセン、シーシース対ロウヤの闘いが始まる。
 
ニレ うわぁー、やばいやばい!
 
   ニレ、逃げる。
 
ワビスケ ランドサイドには侵略させないぞ!
ジェイク なんのことだ?
ワビスケ 子供たちに暴力をふるったことを謝れ!
ジェイク だからなんの話だ?
ワビスケ 無垢な気持ちでシーサイドに訪れただけなのに、ケガを負わせたんだ。
ビルート なにいってるんだ! 1対1の力比べをしたんだ!
シーシース 嘘つきやがって!
ロウヤ うるさい!
ワビスケ とにかく、捕虜にしたイセビを返せ!
ジェイク 捕虜になどしていない!
ワビスケ じゃあ、今すぐに差し出せ!
 
   エフロディーテとエイティスが走り込んでくる。
 
エフロディーテ ジェイクさん!
ジェイク おお、イセビの居所がわかったか?
エイティス イセビはエイリオと海に入りました。泳ぎの勝負にと!
ジェイク 泳ぎの?
エイティス 早く助けてください!
 
   気を取られた隙にワビスケからダメージを受けるジェイク。
 
ジェイク ぐっ……助けようにも。(ワビスケに)聞いてくれ。今、イセビは海にいるそうだ!
ワビスケ (恐怖に顔を引きつらせて)海?
エイティス こんな荒れた海に入って無事に済むわけがありません。
ジェイク まずいな。
ワビスケ ……なんということだ。海の餌食にされてしまったのか?
 
   ニレ、戻ってくる。
 
ニレ やべぇ、後ろはやられてるぞ!
 
   ケイモスが興奮した状態でやってくる。
 
ケイモス 次はどいつだー! お前かー!
 
   ケイモス、ワビスケに襲いかかる。ワビスケはイセビのショックからまともに戦えない。
 
ロウヤ おいっ! まずいぞ!
ハクセン くそっ!
 
   更にイーオも包丁を持って現れる。
 
イーオ さあー、あたしも戦うわよー! うっふっふっ!
ハクセン・ロウヤ う、うわぁ〜〜!
ワビスケ (倒れる)お前たちは逃げろ! おれだけでもイセビを取り返す!
ニレ ケガしてんのに無理だ。死んじゃうよ!
 
   イーオ、ワビスケの頭上で、包丁を振りかぶる。
   「待って!」というエイリオの声。皆、止まる。
   客席後方より、エイリオとイセビ、ジルが登場。エイリオはイセビを支えている。
 
エイティス エイリオ!
ワビスケ イセビ!
エイティス 生きていたんだな! よかった。
エイリオ 一体これはどうしたんですか?
イセビ (倒れているワビスケの元へ)ワビスケさん、大丈夫ですか?
ワビスケ お前こそ無事か? 必ず連れて帰ってやるからな。
イセビ 連れて帰るもなにも、これから自分で帰るところでしたよ。
ワビスケ え……? どういうことだ……?
 
   目線をそらそうとするハクセン、ロウヤ。
 
エイティス お前、海に入ったんだろ? 大丈夫だったのか?
エイリオ 泳げたんだ。姉ちゃん、泳げたんだ! ね? 見てたよね?
ジル うん。
エイティス 本当か?
エイリオ そんなことより、なにが起こってたの……?
ワビスケ すまん。おれの頭じゃ整理できない。
ハクセン (突然土下座をし)ごめんなさーい!
ロウヤ (それを見て土下座する)
ワビスケ ……なんだ? どういうことだ?
ハクセン う……う……!
ワビスケ どうした? いってみろ。
ハクセン う〜〜!
ワビスケ 泣いてちゃわからんぞ。
ニレ ハクセンとロウヤは1対1の力比べで負けたんです。それに腹を立てて長老に報復を申し出たんです。イセビは、その勝負に勝って、認められたから、しばらく残っていただけです。捕虜にされたんじゃないんです。
ワビスケ お前たち……そんなことで、大人たちを駆り出して戦争にまでさせたのか。
ロウヤ まさか、こんな酷いことになるとは思ってなくて……。
シーシース ふざけるなよ!
ニレ ごめんなさい……。
 
   ディアナが現れる。
 
ディアナ なるほど、そういうことか……。
エフロディーテ 長老。
ディアナ 発端については、こちらにも非がある。報復したいという気持ちもわからんではない。起こってしまったことはしょうがないが、双方に痛手を負ってしまったのが残念なことだ。
ニレ 薬はたくさん持ってきています。是非皆さんの手当をさせてください。
ディアナ それはありがたい。皆のもの、武器を捨てよ。傷ついたものを助けるのだ。隣国の民を敬え。我らは敵同士ではない。
ジェイク (ワビスケを助け起こす)
ワビスケ すまない……。
ビルート (泣いているハクセンの背中に手を置く)お前、おれ以上の負けず嫌いだな。
ディアナ ふぅむ。ようやく天気が晴れてきた……。
 
   皆、お互いに助け合い、声をかけている。
 
エイティス ……さっきの話。
エイリオ うん。ぼく、初めて泳げたんだ。
エイティス 信じられないよ。あんな荒れた海で。
ジル わたしは二人の姿が海に消えたから、もう、二人が溺れてしまったものとばかり……。
イセビ 恥ずかしいけれど、おれはすぐに身体の自由がきかなくなって、気づいたらどっちが上でどっちが下かもわからなくなってた。
エイリオ ぼくも、後に引けなくなって海に飛び込んだけれど、想像以上に波がきつくて、もう無理だと思って溺れかけたんだ。そのとき、イセビが海の中に沈んでいくのが見えて、このままだと死んじゃうと思ったんだ。助けなきゃって思って、無我夢中で水をかいてたら、突然流れに乗れるようになって。
エイティス (感激して)そうか。
イセビ 君は命の恩人だよ。
ジル かっこよかったよ。
エイリオ (照れて笑う)あ。そういえばペンダント。
ジル はい。(ペンダントを渡す)
エイリオ よかった。
イセビ 彼女の病気に効く薬を持ってこないとな。君もランドサイドに来ないか?
エイリオ え?
イセビ 彼女が来るのは無理だろうが、君が行って症状を詳しくいえば、その場で薬の調合もできるだろうと思う。
エイリオ 本当に?
ディアナ ふむ。いい提案だな。そうだ、このような惨事になってしまったのだ。シーサイドから使者を派遣するとしよう。
ビルート おれ行きたい!
ディアナ その代わりランドサイドの怪我人の世話もするのだぞ。
ビルート はい。やったー、冒険だ!
ハクセン (笑って)なんかお前、おれと似てるな?
ビルート あ、おれも思った。
ディアナ (ジェイクに)お前を使者の代表とする。相応の土産物を持たせよう。
ジェイク 承知いたしました。
 
   エヌール、エルリア、エムニアが登場。
 
エヌール 嵐が過ぎ去った。
エムニア 姉さんの夢の続きはこれなのね。
エルリア 皆の笑顔。
エムニア 新しい時代の幕開け。
エルリア 大地の神と海の神が手を取り合い、より多くの恵みをお与えくださる。
ディアナ 見なさい。雲が晴れ、太陽に照らされ、海が光り輝いておる。我々の希望に満ちた未来と、両国の交流を願って歌おう。
 
   

「海の歌」

進め あの青い海を見ながら
いつも変わらない大きな力
風を受けて網を引いて
豊かな恵みを受ける

激しい波が飲み込もうとしても
僕等は諦めないで向かっていく

あの日手に入れた勇気のかけら
海はいつでも共にある
誇りを胸に生きる
希望溢れる未来

   シーサイドの皆、歌う。

   幕。