The Phantom of the Opera
At the Her Majesty's Theatre on 22th March 2003
 有名な「オペラ座の怪人」である。ロンドンでは1986年からロングランを続けている。古びず、常に満席状態をキープしているというのはすごい。しかし、パリにあるこの「オペラ座」は、ガストン・ルルーが小説を書いた1900年初頭と変わらず残っている。17階になっているというから、怪人が地下に眠るという伝説もリアルだ。
 ストーリーは実に面白いと思う。そして、「美女と野獣」のような、姿形が異なるが故の恋愛の苦しみは純粋に人の心を打つ。我々は怪人の悪行にだって同情を覚える。やはり面白いストーリーは不朽の名作といわれるように滅びない。
 Andrew Lloyd Webberの音楽もいい。この作品に合った名曲揃いだ。Harold Prince演出の様々な仕掛けは、現代においても驚きを与える。実にクリエイティブだ。素人の観客にはこれらの仕掛けにマジックをみるような感を抱くだろう。
 1986年に観れば、最高に忘れられない体験になっただろう。というのも、役者の演技はほとんど死んでいる。明らかにロングランが原因だ。もはや新鮮味をもって演技するのは困難な状態に陥っている。観光客に見せる、daily workになってしまっている。それでも結構見えてしまうのは、大劇場だからと俳優の技術力の高さではないだろうか。
Three Sisters
At the Playhouse Theatre on 23rd March 2003
 今回の旅では、ストレートプレイを観ることが出来ないのでは諦めかけていたので、その日このチケットが取れてほっとした。(一番この旅で観たかったのはトレヴァー・ナンの「Anything Goes」だが、早くにsold outしていた)
 この「三人姉妹」はChristopher Hamptonの新訳だという。ハンプトンは「Art」の翻訳でも有名な劇作家である。演出家はMichael Blakemore、「Copenhagen」などが有名な人だ。プログラムのインタビューを読むと二人ともとてもよくチェーホフを知っているという印象を受ける。そんな二人が新しく創り上げるのだから気合いも入っただろう。 
 ただ、舞台はそんなによくなかった。このブレイクモアという演出家は、「コペンハーゲン」での演出もそうだが、役者を駒のように動かす。動くときは動く。喋るときは(大体止まって)喋る。はっきりしている。このいいところは舞台が緊張感を持ち、締まるということ。しかし、反面ナチュラルさ、クリエイティブさは欠ける。いや、それがよくなかったという理由ではない。こんな舞台をロンドンで観るのは初めてだが、少し「バタバタしてた」。稽古不足なのか? 最後の幕引きで、颯爽と立ち去るところを帽子を落としてしまったり。役者がのびのびと自信を持って演技をしていたとも思えなかった。
 客はほどほどだった。だから三階席のチケットを買い、休憩で二階の一番前に移動した。
My Fair Lady
At the Theatre Royal Drury Lane on 24th March 2003
 今回の旅でダントツに良かったのは、この「My Fair Lady」だ。前回の旅の時に観ておけば良かった。この作品はOlivier賞のミュージカルと振り付け、それから女優で受賞していたと思う。はっきりいってオリヴィエ賞をとるのは当たり前の出来だった。
 「マイ・フェア・レディ」は、バーナード・ショーの作品を下敷きに、長い年月格闘しながらミュージカルにさせたもので、Trevor Nunn演出、Mathew Bourne振り付けで、新しく蘇った。ちなみにプロデューサーはCameron Mackintosh。マシュー・ボーンは世界の各地で「Swan Lake」を上演したりしているので、最近では日本人でも知っている人が多いだろう。女優はオリヴィエ賞受賞者ではなく、以前「Whistle Down the Wind」で主役をやっていたLaura Michelle Kellyになっていたが、彼女の歌声・演技は充分に良かった。
 おそらくトレヴァー・ナンの新作ミュージカル「Anything Goes」(これもオリヴィエ賞受賞)もそうだろうが、これまでのミュージカルのような派手なお金をかけた仕掛けはない(シャンデリアが落ちるだの、ヘリコプターが落ちるだの、列車が突っ込んで来るだの)。驚かす仕掛けはロングランミュージカルに必要とされてきたが、ナンはそんなものに頼らなくても観客を釘付けにし、最後にはスタンディング・オーベーションにしてしまう天才的な技術がある。その一つが、舞台転換のスピーディーさである。全て流れの中で舞台はスライディングやバトンを使って速やかに変わるから、勢いは落ちない。見せ場を作るのがうまい。今回見せ場のダンスで、振り付けの良さが光った。はっきりいって「Swan Lake」を観たぼくにはボーンがこんなシンプルで楽しいカントリー調の振り付けをできるとは思わなかった。踊っているときも、ダンス組と演技組がうまく交差して、例えば酒場の雰囲気を出しながら楽しいダンスも見せるというように、全体のアンサンブルがいい。この楽しい雰囲気に引き込まれる。そういえば、この舞台を観る前に一度CDを聞いたことがあったが、全然楽しさは伝わらなかった。本物の舞台は楽しさで溢れていた。
 観て、「これはスタンディング・オーベーション」だと思った。その通りに、久しぶりのスタンディング・オーベーションを体験した。