さて、シェイクスピアほど有名な劇作家はいません。第一回目ということで、一番有名
な人を取り上げてみますが、演劇に馴染みのないごく普通の人には「シェイクスピアって
とどのつまりなにをした人?」と首を傾げてしまう人がいるかもしれません。
シェイクスピアは1564年、ストラットフォード・アポン・エイヴォンというロンドンから離れた田舎町で生まれました。シェイクスピアの生まれた家や、彼の年上の奥さんアン・ハサウェイの家などは観光地として今も残っており、観光が支えている王国イギリスの貴重な財産源となっています。
かくいうぼくも99年の初夏に行ってまいりました。ピークを外していったにも関わらずすごい人でした。RSC(ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー)の本拠地がここにあるということもあって、世界中から観光客がシェイクスピアと芝居を楽しみに訪れます。ぼくは夕方頃についたのですが、インフォメーションセンターがしまっていて、B&B(ベッド&ブレックファースト=つまり朝食付きの安旅館)をとることができませんでした。エイヴォン川
に浮かぶ小舟で過ごした一夜は生涯忘れることが出来ないでしょう。美しい星空が広がり、夜のとばりは冷気とともにぼくを包み、容赦なく体温を奪っていきました……。
話がそれましたが、シェイクスピアは「恋におちたシェイクスピア」をご覧になってもわかるように最初は駆け出しの役者でした。けれど、彼は役者としては成功せず、脚本を書くことで名声を築くことになります。演技に自信がなかったのか、書くための時間を確保したかったのか、彼が舞台に立つときはちょい役ばかりでした。
彼の作品は歴史劇に始まり、喜劇、悲劇、幻想的なロマンス劇とバラエティーに富んでいます。その中で有名なものをちょっと挙げてみましょう。「ロミオとジュリエット」「リチャードV世」「ヴェニスの商人」「真夏の夜の夢」「ハムレット」「オセロー」「リア王」「マクベス」「テンペスト」などなど37作品、他にも共作したものや、ソネットがあります。
彼の作品の多くは、約四百年間、世界中で読まれ、そして上演されてきました。これは驚異的なことです。普通、演劇というのは上演するその時代にマッチした「現代性」があります。ところが、エリザベス朝、ジェームズ朝の時代の作品が今でも上演されているんですから。ちなみに、この時代は日本では出雲の阿国が歌舞伎をはじめた頃ですので、どれだけ古いかわかるでしょう。とにかく、いくら演出で「現代性」を加えているとはいえ、これほどまで愛され長く上演されるのにはもちろん秘密があります。
それはシェイクスピアの持つ「普遍性」です。彼は非常に人間を描くのがうまく、また人生や社会の真理を巧みな切り口で表現しています。読めば読むほど奥の深い彼の戯曲は未だ完全に解釈されたとはいえませんし、時代が移ろい変化しても、決して変わらない普遍性を持っています。
演劇的な要素でも同じことです。シェイクスピアの時代から見ると、演劇も随分と変化を遂げてきましたが、大事なものは何ら変わっていません。20世紀の後半で最も有名だったといえる演出家ピーター・ブルックも、著書で革新的な演劇論をうち立てていながら、いっぽうで「シェイクスピアは全て持っている」とシェイクスピアを称賛します。
かくいうぼくも、シェイクスピアを最上に評価している一人です。劇作家としていわせてもらっても、彼は超がつく天才です。ブルックと同様「認めざるを得ないのは悔しいこと」だけれど、呆れちゃうぐらいすごすぎです。
シェイクスピア……読んだことのない人は是非読んでください。読んだことある人も、今度は違う作品に手を伸ばしてみましょう。そして、機会があれば舞台も見て下さい。できれば、日本人でないプロダクションのものを。