第二回目は、アラン・エイクボーン(Alan Ayckbourn)を取り上げます。エイクボーンと聞いて、どれほどの方がわかるでしょうか? 彼は、「Sir」の位を授けられるほどイギリスでは有名な喜劇作家です。1939年生まれですから、昨年が日本でいう還暦に当たるわけです。年齢的には、もうかなりのベテラン、というかとっくに現役を退いていてもおかしくない年なのですが今なお現役で活躍しています。作品数は現在55作品。非常に多作ということでも知られています。(*この記事は2000年に書かれました)
また、エイクボーンは戯曲を書くだけでなく、演出もします。その腕は、ナショナルシアターの演出家を任されたこともあるほどです。若かりしときには、更に役者、ステージマネージャー、背景デザイン、小道具作りなどもやったようで、全く多種多彩です。更に、1965年から1970年までは、BBCでラジオドラマのプロデューサーとしても活躍しました。彼が得た賞は数えきれず、この演劇王国イギリスで実に長い期間プロフェッショナルと
して飯を食ってき、今なお現役で高い支持を受けているというのはまったく驚くべきことです。
彼の戯曲の多くは英国中流階級の日常的な生活を背景にしたものなのですが、30カ
国語以上の言語で翻訳され、世界中で上演されています。それはどうしてなのか?単純に答えをいえば「面白いから」です。そうです、彼の作品はとっても面白いのです。彼はなにげないことからおかしさをひきだす達人です。日常的なんだけど、ユニークなシチュエーション。登場人物にとってはおかしくないことなんだけど、はたから見ると滑稽。彼は、そのような隠れた面白さを引き出すセンスに長けているのです。
日本でも、三谷幸喜の「王様のレストラン」などのように「シチュエーションコメディー」と
呼ばれるのものがあるので、その面白さはいくらか想像がつくでしょう。喜劇に関しては、
アメリカにニール・サイモンあり、イギリスにエイクボーンありというくらいで、この二人はタイプは異なるものの、喜劇の二大巨頭といえるでしょう。
では、なぜこのような劇作家が日本ではあまり知られていないのでしょう。それは、ぼくの修士論文の主査でもある、日大芸術学部のとある教授が、上演のために翻訳はするものの、それらを未だ出版していないからです。「先生。エイクボーン戯曲集作りましょうね」
まぁ、他にも日本人のカンパニーだといまいち成功しないというのも原因にあるんですけど。
99年夏に、そのとある教授の紹介でエイクボーン本人と会うことが出来ました。そのときは、「Comic Potential」のロンドン公演のために、本拠地スカーバラからやってきていたのです。
ぼくは気難しい方かと思っていたのですが、実のところ、とっても気さくでシャイな人でした。ぼくのほうが落ち着いていたようで、エイクボーンの奥さんから「あなたの年は……84才ね」などと冗談を言われました。
エイクボーン本人から「喜劇の秘密」などを質問したんですが、彼の話を聞いているうちに「あ、この人はセンスで書けてしまうんだなぁ」と思いました。特別な戯曲作法などはないんですね。彼は経験とセンスで書いています。「この人も、演劇をやるために生まれてきたような人なんだなぁ……」と思いました。
彼の劇場もあるホームタウン、スカーバラに「機会があれば是非行きたい」といったんですが……あ……まだ行ってません……。(だって遠いんだもん)