8 月 19 日の DVD 鑑賞会

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皆さん、お疲れさまです。アップが遅くなり申し訳ありません。

8 月 19 日の DVD 鑑賞会で上映されたのは、ハロルド・ピンターの The Caretaker (管理人) です。

不条理劇、ということでしたが、朝起きたら突然虫になっていた、とか、そんな話ではありません。設定された環境自体はきわめて現実的ですが、登場人物たちのやり取りが、まったくもって、日常的でないというか・・・。

ある男 (ミック) が、屋敷 (アパート?) に入っていき、物置部屋に潜んでいる。その後、別の男 (ミックの兄のアストン) と、この男が助けたと思しきホームレスのような風体の男 (デービス) が屋敷に入ってくる。

なぜか、アストンはデービスを家に泊まらせる。アストンがいない間に、ミックとデービスが出会うのだが、ひと悶着の後、ミックもデービスの存在を受け入れる。おまけに、アストンはデービスに管理人の職を与えようとする…。

おそらくは、精神病の治療のため電気ショックによる療法を受けたが、それが原因で、脳に重大なダメージを負ったがゆえに、奇妙なほど穏やかな気性と、デービスに対する善意を示すアストン。

短気でいつもイライラして落ち着かない印象を振りまくミック (このミックは、兄であるアストンを批判しつつも気遣っているように思えました)。

そして、一貫して尊大な態度をとろうとするも、卑屈さをのぞかせるデービス。

この 3 人のやり取りが続いていくのですが、相互理解をしようというコミュニケーションはまったく感じられません。シーンの中で、登場人物がお互いに対して持つ感情を即興的にどんどん切り出して並べたような、言ってみれば、ストーリーがあってないような劇だったような、そんな印象です。

相手が発した言葉が気に入らなければ、突然、それにこだわって相手を責めるシーンが、何度か出てきました。そもそも、各登場人物が話す内容が、どこまで本当なのか、それさえも疑わしい気がしてきます。

雨漏りをためるために、天井から吊り下げられたバケツ。粉々にくだけてしまう小さな仏像。中庭に建てる予定の日除けのための板。

それぞれの小道具も、何かの暗喩のようで、不条理劇、かつ、心理劇といっても良いのかもしれません。だからこそ、見終わった後も強烈なイメージがずっと残りました。

『この 3 人の中で、どの役を演じたいですか?』

上映後の、別役さんの質問ですが、答えるのが難しいです。

どこまで、自分が共感できるのか、自分の記憶の中の感情を引き出して使うことができるのか。

とにかく、セリフをそれらしく言うことでごまかす、などという小細工は一切通用しない劇です。

ドナルド・プレゼンスが、ホームレスのデービスそのものに思えたことに感嘆いたしましたが、彼の特性と役がマッチしていたことも、大きな理由だったのでしょう。あんな演技ができるようになれたら、と思いました (松村記)。

鑑賞会